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千葉地方裁判所 平成7年(レ)34号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  控訴の趣旨

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金一二万八〇九〇円及びこれに対する平成六年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1 被控訴人は、船橋グリーンハイツ(以下「本件団地」という。)内の建物の区分所有者及び一棟以上の建物の所有者全員をもって組織され、昭和六〇年五月一二日設立された団体であり、本件団地の共用部分、共有敷地及び附属施設・設備(以下「共用部分等」という。)を管理している。被控訴人の設立前は、本件団地ができた当時の各ブロックの管理契約に基づき、大成サービス株式会社(以下「大成サービス」という。)が本件団地の共用部分等の管理業務を行っていたが、その当時から後記3の本件駐車場の使用料はエレベーター修繕積立金として積み立てられてきた。

2 控訴人は、昭和四八年三月二六日、本件団地の二-六ブロック内の建物の区分所有者となり、平成六年一月一四日区分所有者でなくなるまで、被控訴人の組合員であった。

3 二-六ブロック内には一一階建高層住宅二棟、一三台分の有料駐車場(以下「本件駐車場」という。)があり、同駐車場は二-六ブロックの区分所有者全員の共有施設である。本件駐車場の使用料は一台当たり月額六〇〇〇円である。

4 被控訴人は、昭和六三年六月二六日開催の定期総会において、本件団地管理組合規約(以下「本件規約」という。)中に、本件駐車場の使用料はエレベーター修繕積立金とし、高層住宅のエレベーター二基(以下「本件エレベーター」という。)及び本件駐車場の補修工事費用に充当する等の規定を追加する改正案が議決された(以下、この議決を「本件総会決議」という。)。右の議案に控訴人は反対した。

二  控訴人の主張

1 控訴人の収益分配請求権

本件駐車場の使用料収入は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)六六条、一九条により、二-六ブロックの区分所有者がその持分に応じて収取すべきものである。被控訴人組合の決算報告によれば、平成五年三月三一日現在のエレベーター修繕費八二万四〇〇〇円を差し引く前の本件駐車場の使用料収支の次期繰越剰余金は一五七八万〇〇一五円であり、被控訴人の組合員であった当時の控訴人の共有持分割合は、八八七〇・三四分の七二・〇三であるから、控訴人が収取すべき金額は一二万八〇九〇円となる。控訴人は、被控訴人に対し、右収益金につき現金で配分を受ける権利を有する。

2 本件駐車場の収益金を高層住宅のエレベーター及び本件駐車場の補修工事費用に充当する処理の違法無効

規約に定めがある場合であれば、本件駐車場の収益金を高層住宅のエレベーター及び本件駐車場の補修工事費用に充当する処理は許される。被控訴人は昭和六三年六月二六日右処理をする旨の本件総会決議を行い、本件規約が改正された。しかし、本件総会決議は、控訴人の承諾を得ておらず、区分所有法六六条、三一条一項、本件規約四九条六項に違反し無効であり、右規約の改正に控訴人の承諾を不要とすることは憲法二九条に違反する。

三  被控訴人の主張

控訴人は本件駐車場の収益金につき具体的な分配請求権を有しない。

第三  当裁判所の判断

一  本件総会決議により改正された本件規約は、七〇条、別表〔3〕の二-六ブロックにおいて、本件駐車場は管理者が定める駐車場使用の契約に基づいて店舗の占有者が有償で使用できる旨及び駐車場総数以上の申込者があるときは、管理組合は抽選により使用者を定めるものとし、店舗の占有者が使用してもなお未使用の駐車場があるときは、店舗の占有者以外に使用させることができる旨の規定を設けたが、大成サービスが管理業務を行っていた当時から本件駐車場の使用者は本件団地内の区分所有者又は一棟以上の建物所有者に限られていなかった。そして、《証拠略》によれば、大成サービスは、本件エレベーターの減価償却期間を一五年とし、昭和六三年以後に新しいエレベーターを設置しようとしていたこと、被控訴人は、平成七年一月当時、平成一四年に本件エレベーターを新しいものに交換しようとしていたことが認められる。これらの事実からすれば、被控訴人は、限られた台数の本件駐車場を本件エレベーター設備の補修・更新のための資金確保を目的として賃貸しているものと認められる。

二  そこで、控訴人が区分所有法六六条、一九条に基づき本件駐車場の収益に対する具体的な分配請求権を有するかにつき検討する。

区分所有法においては、各区分所有者は、一棟の建物の一部を構成する専有部分に対しては排他的な所有権を有する反面、専有部分がその機能を保つために必要不可欠の補充的機能を営む共用部分に対する共有持分については、その分割又は解消が禁止され、専有部分と分離して処分することが禁止されるなど相互拘束を受ける関係にある。区分所有者らのこのような関係に照らすと、区分所有者らの間には一種の人的結合関係が性質上当然に成立しており、各区分所有者は、右結合関係に必然的に伴う種々の団体的拘束を受けざるを得ない関係にあり、このことは本件団地内の区分所有者らと一棟以上の建物所有者らとの間においても同様である。

また、共用部分の利用による収益金が生じるためには、規約又は区分所有者ら(本件においては一棟以上の建物所有者らを含む。)の集会決議において、共用部分の管理の一環として収益源となる事業を行うことについて団体内の意思決定がされ、それに基づき区分所有者ら又はこれから委任を受けた管理者が区分所有者らの団体の事業として共有部分を区分所有者ら又は第三者の利用に供してその対価を徴収し、右対価からそれを得るために区分所有者ら又は管理者が支出した経費等を差し引くなど、一連の団体的な意思形成とこれに基づく業務執行を経て得られるものであることを考えると、共有施設である本件駐車場の開設により得られた収益金についても、右の団体的拘束から自由ではなく、共用部分から生じた利益は、いったん区分所有者らの団体に含有的に帰属して団体の財産を構成し、区分所有者らの集会決議等により団体内において具体的にこれを区分所有者らに分配すべきこと並びにその金額及び時期が決定されて初めて各区分所有者らが具体的に行使できる権利としての収益金分配請求権が発生するものというべきである。

そうすると、本件駐車場の収益金について金銭による具体的分配に関する団体的意思決定があることの主張・立証がない以上、控訴人は、被控訴人に対し、裁判で履行を求め得る具体的な金銭請求権を有していないといわざるを得ないのであって、その余の点について判断をするまでもなく、控訴人の請求は理由がない。

三  以上のとおりであるから、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官 石川善則 裁判官 中村俊夫 裁判官 三上孝治)

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